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明治のヨーグルト「R-1」 本来商標登録できないが、登録。なぜ?

 先日、明治のヨーグルト飲料「R―1」が商用登録を受けたという記事をみました。なぜ「R-1」という商標が登録されていることが話題になっているのかというと、本来「R-1」という名称は商標登録の対象にはなっていないからです。

 そもそも、なぜ「R-1」は商標登録の対象にならないのか?

 商標は、商品又はサービスの名称であり、その商品又はサービスがどこの事業者から販売又は提供されたものであるかを区別させるためのものです。この区別をすることができる機能を商標法上、自他商品・役務識別機能といいます。自他商品・役務識別機能は、商標の本質的な機能を言われています。

 商品又はサービスを連想させるような名称は自他商品・役務識別機能を備えていないことが多いです。例えば、商品「お茶」に対して「おいしいお茶」、商品「リンゴ」に対して「アップル」等は、自他商品・役務識別機能を備えていません。一方で、商品「パソコン」に対して「アップル」は自他商品・役務識別機能を備えています。商品「リンゴ」との関係において「アップル」は商品そのものを示すものであるのに対し、商品「パソコン」との関係において「アップル」は商品そのものを示すものではないからです。
 自他商品・役務識別機能を備えていない商標は商標登録の対象にならず、このことは商標法第3条に規定されています。

 商標法第3条第1項第1号には、「その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができないと規定されています。
 商標法第3条第1項第2号には、「その商品又は役務について慣用されている商標」は商標登録を受けることができないと規定されています。
 商標法第3条第1項第3号には、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。 )生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができないと規定されています。
 商標法第3条第1項第4号には、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができないと規定されています。
 商標法第3条第1項第5号には、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができないと規定されています。
 商標法第3条第1項第6号には、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」は商標登録を受けることができないと規定されています。

 これらに該当する商標は自他商品・役務識別機能を備えていないものとして商標登録を受けることができません。

 「R-1」は商標法第3条第1項第3号の規定に該当するとして拒絶理由が通知されています。明治はこの拒絶理由通知に対して反論しましたが、審査段階では登録が認められず拒絶査定となっています。

 拒絶査定では、「欧文字の「R」と数字の「1」とを「―」(ハイフン)で結合したものを、標準文字で表してなるものであって、用いられる文字の形や組み合わせに特徴があるもの」ではないと指摘され、また、「欧文字と数字とをハイフンで結合した標章は、商品の種別、品番等を表示する記号又は符号として、一般的に使用されるもの」とも指摘されています。特許庁の審査は商標法審査基準に則って行われるところ、「ローマ字の2字を「―」で連結したもの」は、商標法第3条第1項第5号の「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するものとされています。そのため、拒絶査定における商標法3条1項5号に該当するとの判断は妥当なものといえますね。

 この拒絶査定に対しては、拒絶査定不服審判が請求されています。拒絶査定不服審判は、審査の続審であり、拒絶査定を受けた出願人が査定に対して不服がある場合に申し立てる審判手続です。

 拒絶査定不服審判でも「R―1」が商標法第3条第1項第5号に該当するとの判断は覆りませんでした。しかし、商標「R-1」は商標法第3条第1項第5号の規定には該当するものの、例外的に商標登録が認められています。例外的な規定に関しては商標法第3条第2項に規定されています。

 商標法第3条第2項には、「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」と規定されています。つまり、商標法第3条第1項第5号の規定に該当する商標であっても、「使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」状態になっていれば、商標法第3条第2項の適用を受けることによって商標登録を受けることができます。
 もっとも、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」という要件はとても厳格なので、通常この規定の適用を受けることはできません。

 「R-1」は、全国約3000店の特約店を通じて約250万家庭に宅配されているほか、インターネットによる通信販売が行われていること、ハードタイプヨーグルトの分野において高いシェア率を獲得していること、2013年から2019年にかけて全国紙及び地方紙において継続して広告を掲載し、また、2014年度ないし2018年度にはテレビCMを全国で放映していること等、販売実績、シェア率、広告等に「R-1」を用いていることが評価差され、高い周知性があると認定されました。この結果、商標法第3条第2項が適用され、商標登録されました。

 「R-1」の経緯をみてわかるとおり、商標法第3条第2項の適用は容易ではありません。全国販売や広告等を行うための大きな資金力が必要になります。ただ、こういう制度があるというのを知っておくことで商標法に対する理解度が向上すると思います。ぜひ、覚えておいてください。