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アイディール通信

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「ラブライバー」の商標をYotuberが出願し、再び商標騒動・・

 「ラブライバー」という言葉をご存じでしょうか?私は周りにオタクがいるのでなんとなく言葉は知っていましたが、アニメはワンピース、鬼滅の刃等の王道しかみないよって方は知らない方も多いのではないでしょうか。

 「ラブライバー」とは、アニメ「ラブライブ」のファンの総称です。「ラブライブ」とは、複数の少女がスクールアイドルとして活動するアニメです。様々なグッズ展開やアニメ内で使用された楽曲を用いた音楽ゲーム等もあります。

 今回の件は、この「ラブライバー」というファンの総称をとあるYoutuberが商標登録出願をしたというものです。「ゆっくり茶番劇」の商標事件と同じ構造ですね。なお、記事によっては既に商標登録されていると述べられているものもありますが、現時点では商標登録出願されただけにすぎず、商標登録されたわけではないです。

 仮に「ラブライバー」が商標登録された場合、どのような行為に権利が及ぶのか?

 商標権の権利範囲は、①登録された商標と②指定商品又は指定役務によって決まります。②の指定商品又は指定役務とは登録された商標の用途を指します。指定商品又は指定役務は商標登録出願を行う際に願書に記載します。つまり、出願人の意思で任意に設定できるということですね。

 なので、登録された商標を指定商品又は役務に使用する行為は商標権侵害に該当する一方、登録された商標を指定されていない商品又は役務に使用する行為は商標権侵害に該当しません。つまり、「ラブライバー」がこのYoutuberによって商標登録されたとしても、指定商品又は指定役務に対して「ラブライバー」の語を用いる行為のみが制限され、単にSNSで発信する行為(広告的な行為を除く)等には商標権の効力が及びません。なので、ラブライバーの方たちが「私はラブライバーです」と名乗ることに関しては何の問題もないのです。

 商標登録される可能性はあるのか?

 結論から言うと、商標登録される可能性はあります。ただし、特許庁での審査段階で拒絶理由がみつかった場合は商標登録されません。
 本来的に商標は、その事業者がその商標を指定商品又は指定役務に対して実際に使用している又は使用する予定があるものしか登録されるべきではありません。商標法第3条第1項柱書には、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定されており、商標法は商標の使用又は使用意思を求めていることがわかります。

 なぜ、商標は実際の使用又は使用意思を求められているのでしょうか。

 まず大前提として、商標法は、商標を形式的に保護しているにすぎず、商標自体に価値があるものとして認められているのではありません。
 商標は同種商品又は同種サービスからお客様に区別してもらうための標識です。世の中には同種商品又は同種サービスがあふれているので、これらに事業者を区別するための標識がなければお客様は所望する事業者の商品又はサービスにたどり着くことはできません。
 お客様が商標を手掛かりに商品又はサービスを区別し、繰り返しその商品を購入又はサービスを受けるのは、その商標がついた商品又はサービスをお客様が求めているからですよね。繰り返し求めるというのはその商標に対するお客様の信頼が生まれているということになります。
 例えば、アップル製品なんかで例えると、アップルのマークがついた電子機器であれば、アップル製品としての品質を維持していると考えられるため、お客様はその信頼に基づいてアップル製品を購入します。

 このように、商標法は商標に対するお客様の信頼を保護対象としており、商標自体を保護対象として認めているわけではないのです。ただし、お客様の信頼を直接的に保護することはできないので、商標の保護を介して、間接的に商標に発生したお客様の信頼を保護しています。

 お客様の信頼は、実際の商品又はサービスに商標を使用し、お客様にその商標がついた商品又はサービスの体験をしてもらって初めて生まれるものです。そのため、商標は商品又はサービスに使用されなければ、お客様の信頼が蓄積されず、商標法が保護対象としているお客様の信頼を保護することができないのです。したがって、商標法は、商標の登録要件として、その商標を実際に使用している又は使用する予定があることを規定しています。

 この規定からすると、無関係の第三者による出願(今回の「ラブライバー」や「ゆっくり茶番劇」)は商標登録されるべきではないことがわかりますね。しかし、特許庁の審査の段階ではそこまで細かく使用する予定があるか否かを確認しないので、「ラブライバー」の出願人が「ラブライバー」の語を指定商品又は指定役務に対して使用するかどうかの確認がされるかどうかはわかりません(ゆっくり茶番劇の例があるので確認される可能性もあると思っていますが)。

 商標法の審査基準では、一区分あたり23以上の類似群コードを含む場合は、使用意思の確認をすることが規定されています。類似群コードとは指定商品又は指定役務に対して割り振られたコードです。審査官はこの類似群コードに基づいて、先に登録された登録商標の指定商品又は指定役務と後から出願された商標の指定商品又は指定役務が、紛らわしいほどに似ているかどうかを審査します。
 「ラブライバー」の商標登録出願については、第35類、第41類、第42類が指定されており、各区分において多数の指定商品又は指定役務が記載されています。この第35類、第41類、第42類の中のいずれかの区分において、23以上の類似群コードが含まれている場合は、特許庁から拒絶理由が通知され、「ラブライバー」の出願人が「ラブライバー」の商標を該当する区分に記載された指定商品又は指定役務に対して使用する意思があるかどうかの確認が行われます(なお、各区分において23以上の類似群コードが含まれているか否かは確認していません。)。確認の結果、審査官が出願人に使用意思はないと判断した場合、商標登録はされません。

 特許庁の審査は約11か月程度かかっているので、「ラブライバー」の商標登録出願に係る審査結果を知れるのは来年になります。その時はまた記事にしようかなと思います。