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OMEGA社のパロディー時計を販売するOMECO社の商標登録が取り消されました

 OMEGAのパロディー時計であるOMECO時計について近頃ニュースで話題にあがっていますね。OMECO社は、OMEGA社の時計とそっくりな時計を販売している会社です。HPをみるに少し卑猥な路線で攻めた時計といったところでしょうか。万人受けはしないでしょうが受ける人には受けるんですね。OMECO時計以外にもOMEX等、他の著名な時計ブランドのパロディー時計も販売しているようです。

 商標の世界とパロディーの世界は切っても切り離せないものがあり、度々話題に上がります。有名なものだと白い恋人と面白い恋人の話題なんかがありましたね。これについては後日別の記事で解説しようと思います。

 この記事では今回のOMECO社とOMEGA社の紛争と商標法の制度について解説します。

 OMECO社は、標準文字の商標「OMECO」の商標登録を受けていました。商標登録出願の日は2019年10月31日で特許庁から登録査定が出たのが2020年7月20日です。登録商標の権利範囲である指定役務は第14類の時計のみを指定しています。登録査定が出ているということは、特許庁の審査過程では登録してもいいという判断が知財高裁でなされたということです。

 今回の件は特許庁で行われた審査結果(登録査定)を取り消すための登録異議申立てにおける取消決定にかかる取消訴訟です。ちょっとわかりにくいですが、登録異議申立てでなされた特許庁の判断である登録査定の取消決定を取り消すためのものです。つまり、特許庁での判断が登録異議申立てで誤りと判断され、更に知財高裁でも誤りであると判断されたことになります。

 この話しを聞いて特許庁の判断にも誤りがあるの!?と驚かれるかもしれませんが、仕方のない部分があるんです。特許庁の審査は、商標法に対応する商標審査基準という審査のルールに則って行われます。特許庁審査官はこのルールに則って審査を行うことで大体どの審査官が審査しても同じ結論を導き出すことができ、かつ、審査を迅速に行うことができるようになっています。

 商標登録出願は毎年大量に行われるので、審査を公平かつ迅速に行うためにこのような運用となっています。こういったルールがなくなく一つ一つ丁寧に審査していたらいつまで経っても審査が終わりません。更に、商標登録出願の出願件数は毎年延びているため、特許庁審査官の負担は今後も大きくなっていくことでしょう。現状でも商標登録出願の審査は昔に比べると遅くなっており、審査結果がくるのは商標登録出願をしてから約11か月程度かかっています。なお、審査結果が早くほしいときの方法もいくつかありますが、本記事でその説明は割愛します。

 ここまでで、特許庁の審査結果は完全ではないことがわかりましたね。そのため、商標法には、特許庁の判断に誤りがある商標権等を残しておかないようにするための制度が用意されています。その一つが登録異議申立て制度です。登録異議申し立ては、特許庁自ら登録処分の適否を審理するものであって、その登録処分に瑕疵(誤り)がある場合はその是正を図ることを目的としています。登録異議申し立て制度は、商標権の設定登録後一定の期間に限り、誰でもその商標登録の取り消しを求める機会を与える制度です。誰でもできるので、その商標登録と利害関係のない第三者でも可能です。一定の期間とは商標掲載公報の発行の日から二月以内です。この期間はJ-platpatで商標登録を検索した時のステータス欄に「異議申立のための公告」と表示されます。これは登録異議申立てができる期間ですよってことを伝えるための表示ですね。

 第三者から登録異議申し立てがなされた場合、3名又は5名の審判官の合議体により登録処分の適否について慎重に審理します。審理の結果、その商標登録に取消理由があると判断された場合は、商標権者に対して商標登録の取消理由が通知されます。この通知は、登録異議申立てにかかる申立書の提出期間から6か月~8か月程度要するとされています。これに対して、商標権者は所定の期間内に限り特許庁の決定に対して意見書を提出することができます。

 OMECO社の商標登録は、登録異議申立てによって取消決定がなされています。登録異議申立ての審理では、特許庁の審査官が行った判断に誤りがあると判断されたということですね。OMEGA社としてはここで終わりにしたかったところですが、OMECO社はこの取消決定に対しての取り消しを求める訴訟を提起しました。なお、登録異議申立ては行政処分ですので、この訴訟における被告は特許庁長官となります。OMEGA社は被告補助参加人として参加しました。

 手続の流れや概要はお分かりいただけたと思いますので、今回の取消訴訟の中身について少し触れて終わりにしましょう。

 裁判所の判断は以下とおりです。
 商標「OMECO」は、「オメコ」の称呼を生じるものであり、オメコは、「大辞林 第四版」に「俗に、女陰の称を」、「大辞泉 第二版上巻」に「女性性器の俗称」を、等、女性器を示すものとして認知されていることの裏付をいくつか挙げられています。その一方で、オメコという称呼から女性器以外の異なる意味合いを直ちに想起させる語はみあたらないとしています。
 また、商標「OMECO」は、「変態高級腕時計」の文字と、女性器を模した、二重丸とその中心を縦断する縦線及び円の外側の放射状の短い線で構成される図形と一緒に表示されており、更に、性的な意味合いを認識させる表示が付された商品画像が多数掲載されていることから、各事典に掲載されたとおりの意味合いで使用されているものと認められます。

 このことから、裁判所は、商標「OMECO」が女性器以外の意味合いのものと理解される余地はなく、その構成自体が卑わい又は他人に不快な印象を与えるようなものであって、その余の点について検討するまでもなく、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきであると判断しています。
 その余の点というのは、OMEGA社の主張のうち出所混同に関するものです。OMEGA社の出所混同に関する主張は、OMECOの商標を時計に使用した場合、これに接する取引者、需要者は高い周知著名性を有するOMEGA社の商標を連想、想起するものといえ、商標OMECOを使用した商品がOMEGA社又はOMEGA社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し、その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである、というものです。
 もっとも、裁判所としては当該出所混同に関するOMEGA社の主張を検討するまでもなく、OMECOが卑わいな表現であるとして少なくとも商標法第4条第1項第7号の規定に違反するものと判断しています。これによって、登録異議申立てにおける取消決定は取り消されることなく、OMECO社の商標登録は取り消されることになりました。OMECO社の商標登録が取り消されることによって、OMECOという商標は誰でも使えるようになりました。もちろん、OMECO社が使用することもできます。

 今回の件でOMEGA社はOMECO社による商標「OMECO」の商標登録を防げたわけですが、OMEGA社はOMECO社による時計の販売行為をOMEGA社の商標権によって防ぐことができるかどうかは商標の類似性等の観点から怪しいところがあります。もっとも、不正競争防止法という法律ではOMECO社による商標OMECOの使用を排除できる可能性はあると考えます。
 OMECO社は、商標「OMECO」の他に「OMECO」の文字と女性器を模したロゴマークを一体とした商標についても商標登録出願しているようです。こちらについても商標「OMECO」と同様の理由に特許庁の審査で拒絶されるのではないでしょうか。